大判例

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仙台高等裁判所 昭和27年(ネ)397号 判決

控訴代理人は、「原判決は原告の請求を棄却するとの部分を除きこれを取消す、被控訴人の請求はこれを棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、本件請求は、控訴人の設置した丸太長木の立掛置場には丸太長木の顛倒を防止するに足る設備が施されていなかつたこと、即ち工作物の設置に瑕疵があることを理由とするもので、民法第七百十七条により損害賠償を求めるものである、と述べ、控訴代理人において、原判決事実摘示の控訴人主張事実中第一乃至第三の抗弁事実を撤回する、被控訴人主張の日時にその主張のような丸太長木が顛倒したこと、これにより被控訴人が傷害を受けたこと、及び治療日数その治療費等はすべて不知と述べたほかは原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人は土木建築の請負業を営む会社であつて被控訴人の夫佐藤要右衛門が昭和二十一年七月頃以来控訴人から借りて被控訴人と共に居住していた仙台市北一番丁九番地内の家屋の近くに丸太長木を立掛け保管しておく丸太立掛置場を所有且つ占有し、常時同所に控訴人の営業に用いる丸太長木を立掛けていたことは当事者間に争がない。

よつてまず、被控訴人の主張する本件事故の発生の有無について審按するに、成立に争のない甲第三号証、原審証人戸井くによ、細谷たけ、原審及び当審証人佐藤要右衛門(原審は第一回)の各証言原審における検証及び被控訴人(原告)本人尋問の各結果を綜合すると次の事実が認められる。即ち、昭和二十五年五月十九日正午頃、被控訴人が控訴人所有の前記丸太立掛置場から数間東方に離れた右自宅玄関前で洗濯中、瞬間的な突風のため右丸太立掛置場に立掛けてあつた長さ約三間半以上の丸太長木が被控訴人方の玄関前に向つて倒れてきて、その先端から二三尺根元の方によつた部分が被控訴人の頭部にあたり、そのため被控訴人は頭蓋裂創骨折の傷害を被つた。以上の事実が認められ、右認定を妨げるに足る証拠はない。

そこで次に右事故の発生が、控訴人の所有且占有に係る右丸太立掛置場の設置に瑕疵があつたことに因るものかどうかの点について考える。昭和二十五年七月初頃前記丸太立掛置場を撮した写真であることに当事者間争のない乙第二、三号証(尤も控訴人は当審で右乙第二、三号証の撮影時期は同年六月初頃であると従前の主張を変えたけれども、乙第四、五号証中撮影時期の記載部分並びに当審における証人戸井伝蔵、控訴会社代表者本人の右の点に関する供述はたやすく信用できず、その他に右の点に関する従来の主張が真実に反することを認め得る証拠はない。)原審及び当審証人佐藤要右衛門の証言、原審における検証の結果に徴すれば本件事故発生当時における前記丸太立掛置場の構造は、大要次のようなものであつたことを認め得る。即ち、南、北、西の三方に夫々数本の丸太長木を根本の部分を土地に埋めて垂直に立て、右三方とも地上約二間位の高さ以下の部分に丸太で数段の横木を針金で結びつけたほか、丸太を斜交に結びつけて補強した幅及び奥行とも約二間のコの字形のもので、東側の一方があいていてそこから丸太を出し入れするようになつていたのであるが、あいている東側には立掛けた丸太長木の顛倒を防止するための設備は何も施してなかつた。以上の事実が認められる。而して当審証人横山五郎治の証言によると、一般に丸太立掛置場の構造は本件右認定のような構造のものであつて、控訴人の右丸太立掛置場が一般同業者の設置しているそれと別段異るものではないことが認められる。しかしながらそれだからといつて、控訴人の右施設に瑕疵がなかつたものと即断することは許されない。即ち右丸太立掛置場に丸太長木を立掛ける際、東側から西側に向け相当の角度をとつて立掛けたならば、その立掛けた長木が容易に倒れる虞れはないであろうけれども、角度を急にして立掛けたり、或は南又は北の側面に立掛けたりした場合には僅かの外力のために、たやすく東方に向つて倒れる危険のあることは、前認定のような丸太立掛置場の構造からみてこれを推測するに難くない。しかも当審証人戸井伝蔵、佐藤要右衛門の各証言及び当審における控訴会社代表者阿部充本人尋問の結果を綜合すると、控訴人はその営業である土木建築請負業のため常に相当数の人夫を使役し、請負工事に用いるために人夫をして右丸太立掛置場に立掛けられた丸太長木を頻繁に出し入れさせていることが認められる。これ等数多い人夫の中には、丸太長木を立掛けるについて時に慎重な注意を欠き、急角度に立かけたり或は立掛置場の南又は、北の側面に立掛けたりするような者のないことを保し難いことは容易に推測し得るところであるからして、右のような事情の下においては、右丸太立掛置場の東側出入れ口に、立掛けた丸太の顛倒を防止するに足る適当な設備、即ち立掛けた丸太長木の出し入れをする際には一時取外すにしても、出し入れが終ればその都度直ちに取付けることのできるような適当な設備を施すべきものといわなければならない。かかる設備のなかつた前記丸太立掛置場には設置上の瑕疵があつたものというべく、控訴人の有する本件の丸太立掛置場と同種のものについても一般的に右のような顛倒防止の施設を欠くのが普通であるにしても、この故に前記瑕疵の存在を否定し得るものではない。そして前段認定のように本件丸太立掛置場に立て掛けてあつた丸太長木が倒れたのは右置場の設備に前示のような瑕疵があつたことによるものと認められるからして、本件の事故は結局控訴人の占有し所有する右丸太立掛置場の設置に瑕疵があつたことによつて発生したものといわざるを得ない。以上の認定を動かすに足る措信し得べき証拠はない。

然らば控訴人は本件事故によつて被控訴人の被つた物質上及び精神上の損害を賠償する義務があるものというべきである。而して被控訴人が前記傷害の治療のため合計金八万七千六百八十六円五十銭を費したこと及び被控訴人の精神上の苦痛に対する慰藉料として金三万円を相当とする事情等についての当裁判所の認定はこの点に関する原判決の理由と同じであるから、原判決の理由中右の点に関する部分を引用する。

以上の次第であるから、控訴人に対し被控訴人の本件事故に基く傷害治療費等合計金八万七千六百八十六円五十銭とこの傷害に因り被控訴人の受けた精神的苦痛に対する金三万円の慰藉料及び以上の総額に対して昭和二十五年八月二十日(訴状送達の翌日)より完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を命じた原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用し主文のように判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

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